ABC予想を証明する際に用いられた望月新一教授が構築した「宇宙際タイヒミュラー理論(タイヒミューラー (=iut理論))」は、どんな理論なのでしょうか?天才数学者のピーターショルツが指摘したとされる欠陥の内容も含め、入門記事としてまとめました。
宇宙際タイヒミュラー理論
望月新一教授
日本が誇る天才数学者の一人で、「16歳でプリンストン大学進学→23歳でPh.D.取得→32歳で京都大学教授」という、驚異的な経歴をお持ちです。
専門分野の経歴は、我々のような素人にははるかに理解を超えていますが、実績を調べると以下のような記載があります。
グロタンディーク予想(遠アーベル幾何予想)を予想を超えた形で証明。p 進タイヒミュラー理論の構築、楕円曲線のホッジ・アラケロフ理論の構築、曲線のモジュライ空間の既約性の別証明、数論的小平・スペンサーの変形理論、Hurwitz スキームのコンパクト化、crys-stable bundle の構成、数論的 log Scheme 圏論的表示の構成、宇宙際幾何 (うちゅうさいきか、inter-universal geometry) の構築。1998年の ICM では招待講演をしている。著作に Foundations of p-adic Teichmüller Theory がある。
出典:ウィキペディア
ABC予想
こちらも素人が説明できるレベルを超越していますが、以下のような予想です。
a + b = cを満たす、互いに素な自然数の組 (a, b, c)に対し、積 abc の互いに異なる素因数の積を d と表す。このとき、任意の ε > 0 に対して、c > d1+εを満たす組 (a, b, c) は高々有限個しか存在しないであろうか?出典:ウィキペディア
この予想は1985年に提起されてから世界の数学者を悩ませてきた問題ですが、2012年8月30日に望月新一教授が「宇宙際タイヒミュラー理論とともに証明した」と公表されました。
あまりに難解極まりない理論のため、第三者による「間違いなし」という「査読」が難航しています。
この点を憂慮した望月新一教授は、以下のようにコメントされています。
理論の本筋や本質的な正否に関わるような問題点は一件も確認されておりません。
また、ご本人以外の方による数々の検証結果を受けて、以下のように考えているともコメントされています。
宇宙際タイヒミューラー理論の実質的な数学的側面についての検証は事実上完了している。
望月教授のウェブサイトから垣間見えるのは、
「検証作業に参加していない多くの専門家たちは、「1から理論を勉強する」時間を割くことを躊躇しているため、理論が理解できない」
ということです。
ショルツが指摘した欠陥とは
ピーターショルツ教授
数論幾何学と呼ばれる数学の分野の教授で、数学界の最大の名誉とされる「フィールズ賞」を30歳で受賞した方です。
ABC予想という数学界が注目している超難問を証明したという望月教授の論文は、ショルツ教授も注目されていたようです。
論文を読み進める中で、理解が追いつかない箇所があったようで、2018年3月に望月教授と議論を交わす場を設けました。
ICYMI: Discussing mathematics with Peter Scholze, one of the 2018 Fields medalists, is like consulting a “truth oracle,” according to one of his colleagues. “If he says, ‘Yes, it is going to work,’ you can be confident of it.” https://t.co/uQghb304OG pic.twitter.com/tmmcErwN0D
— Quanta Magazine (@QuantaMagazine) 2019年4月30日
【関連記事】 |
指摘の内容は?
専門的な内容を書く能力がないため結論のみになりますが、望月新一教授による証明がそもそも誤りであると評価されているようです。
その模様を以下のように表現されています。
Peter Scholze of the University of Bonn and Jakob Stix of Goethe University Frankfurt describe what Stix calls a “serious, unfixable gap” within a mammoth series of papers by Shinichi Mochizuki, a mathematician at Kyoto University who is renowned for his brilliance.
その理解が正しいかどうかを確かめるために、2018年3月に望月教授の元を訪ねたのでしょう。
望月新一教授の反応は?
専門家でないと指摘の内容を理解することは困難ですが、結論をいうと、「ショルツ教授は深刻な誤解をしている」という全否定とも取れる評価をされています。
The negative position of SS is a consequence of certain fundamental misunderstandings
ショルツ教授も望月新一教授の指摘を受け入れているわけではないようですので、議論は平行線だった模様です。
二人の天才による議論なので常人に理解できるはずはなく、真相は闇ですね😅
ちなみに望月新一教授は、ご自分のブログで「振り回された」「出鱈目(でたらめ)」という表現を使って、ショルツの指摘が的外れだったことを、強い口調で批判しています。
2018年を振り返ると、海外を発信源とする、出鱈目な内容の残念な雑音に振り回された年になってしまったな、というのが正直な感想です。そのような出鱈目な内容の残念な雑音に接した場合、毅然とした姿勢で対応することの重要性を改めて認識させられる年にもなりました。出典:新一の心の一票
相手も「天才数学者」として世界に名が知れ渡っている人なので、これだけはっきり言うのは「ショルツが理解していないだけ」という確信があるからなのでしょう。
おすすめの本
宇宙際タイヒミュラー理論を一般向けに解説した書籍が、つい先日出版されました。
ご本人の書籍ではありませんが、専門家による書籍なので、必読の書です。
More from my site